マッチングアプリの話
私は暇になると決まってマッチングアプリをインストールしていた時期がある。去年の秋冬頃の事である。
ちなみにここで言う"暇"とは、「仕事は忙しくないので時間はあるものの、マジで金がない。具体的に言えば所持金が1万5千円切ったものの給料日まであと10日間くらいあるし、特に現場の予定はなくて、人生が非常につまらない状態」のことである。
あ〜マジで金がない。
Twitterで舞台毎公演レポあげてるような人って何者?パパ活?石油王?触れたコピー用紙がチケットになる能力者?
クソ〜…映画観たい、美味しいもの食べたい。でもめっちゃ金がない。なんかあったら死ぬ残高だ。いやもう死んでるなこれ。
以上がここで言う"暇"である。
「……金蔓を見つけなくてはならない!私が残高1万5千円でも映画観たり美味しいもの食べたりするには!要するに世の中で言う彼氏!養ってくれる人間が必要!最悪固定でなくてもちょっとチューとかしたらお金払ってくれるようなタイプの男を!何人か!必要!!!」
この"暇"な状態の時、ガチでめちゃくちゃにバッド入るから、正直最低なことしか考えられない。彼氏から貰った〜💓と言って高級アクセサリーをインスタにあげたり、さりげなく高級なランチを匂わせたり、絶対にしてやるから見てろ世の中。クソが。しか考えられない。要するに、人として最悪の状態が私にとっての"暇"だ。
実際、男に養ってもらって自分の収入に見合わない贅沢をするなんてのは無理だ。
ちなみにパパ活アプリも登録したことあるけど怖くなってやめた。この話もいつかするけど、わたしは非モテの小心者なのだ。
数少ない恋愛経験がマジでロクなもんじゃないし、現在の生活は出会いもない。そもそも今、初対面の若い男相手に話すネタがない。若い男(ジャニーズ)の話はできても、若い男相手に話すネタがない。
私はモテない。(当たり前だよ)
しかし、このクソ暇な時間を生かして何かを学びたい。同年代の男との、最初から恋愛前提で始まるようなコミュニケーションを学びたい。
そこで私が思いついたのがマッチングアプリである。
若い男(多分そのはず)と、メッセージのやり取りをすることで、多少は若い男と会話できていた頃の感覚を取り戻せるのではないか?まぁ交通費はかかってもあわよくば映画とかご飯とか奢ってもらえるかも知れないし……下心丸出しである。(CV:キートン山田)
初めてインストールしたのはTinderだ。
仲のいい友人がこれでめっちゃ浮気する彼女を作っていたので、まぁまぁ出会えるんだろうなと思ったからだ。
美容室でカット後に撮ってもらった激盛れ写真をさらにドチャクソ加工してプロフにした。誰だこれ。
始めてみると面白いくらいマッチする。
もはや架空の人物と化したプロフィールで私はTinderを泳いだ。
プロフは「映画とカフェ巡りが趣味です。おいしいものとか一緒に食べに行ってくれる人とお話ししたい!」みたいな感じにした。「美味しい」を漢字で書かないのがこだわりだ。(最低)
すぐに「会いませんか」とか「今からやれませんか」みたいなのは無視して、メッセージのやり取りが続きそうな人を何人かストックした。あくまでやりとりの練習だから……なんかそういう恋愛モードみたいなのを理解するためだから……
5人くらいと、1〜2週間くらいメッセージのやり取りをした。全員、プロフの「映画」に反応してきて、映画の話をしていた。でも全然趣味が合わなくて、5人のうち1人には「一番好きな映画は?」と聞かれて「アウトレイジ!一番最初のやつ!」と答えたらそのあとメッセージが返ってこなくなった。多分「君の名は」とか言えば良かったんだろうな。(?)
そんな時、ある映画が公開される。
「プーと大人になった僕」。
5人のうち1人が脱落し、4人となったTinderの男たちは、全員判で押したようにこう送って来た。
「プーさん観に行かない?」
怖ーーーーッ!!!!全員プーさん観たがるやん!!!全員中身同一人物か?!?!それとも、Tinderの男は全員、プーさんしか映画知らんのか?!?!あ、だから私がアウトレイジの話したら1人死んだの?!?!怖、プーさんしか映画がない村、それがTinder……
ビビった私は誰にも返信せず、Tinderを退会した。
次に暇になった時は、pairsをインストールした。大学の先輩が飲み会の時に「pairsマジ出会える!趣味のコミュニティみたいなのあって、そこでサッカー好きな子探してこないだ一緒試合見に行った!」と言っていたからだ。ちなみにその先輩からスマホ取り上げてしばらくみんなで先輩のpairsで遊んだので、なんとなくどんな仕組みなのか分かっていたのもデカイ。
早速、帰ってpairsをインストールして、アカウントを作った。映画のコミュニティを覗いてみる。「ディズニー映画好き集まれ⭐︎」みたいなのばっかりだ。「園子温作品ファン集まれ」みたいなのは覗いてみたけど、あんまりみんな園子温好きそうじゃなかった。北野武ファンのコミュニティとかないのかな?って探したけど無かった。「新海誠好き集まれ✳︎」「マーベル大好き」「洋画好き」とかあっても「北野武ファン集まれ〜!」は無かった。
誰もアウトレイジの話してなくてショック死した。いや、別に私も北野武ガチ勢とかではないけどさ……なんかショックで……
pairsは誰ともやりとりせず即退会した。
しばらくすると私はまた暇になった。
次こそ負けねえ。プーさんの公開期間はとうの昔に終わった。プーさんが終わったということは、プーさんに誘う男もいない。
チャンスだ。(?)
Tinderを再インストールした。
次はもう少し読書好きとかもアピールして行こう。ガチ勢とは言えないが、文学とか好きだし。これは映画がダメだった時の保険だ。あと職業適当にアパレルって書いた。なんかモテそうじゃん。(最悪大嘘グランプリ)
何人かとマッチした。載せてる写真がガチならかっこいいな〜って感じの人とかもいた。この手の人は大体ファッション好きで、アパレル勤務という虚構の釣り針で釣り上げていた。
活動を2週間くらい続けたところで、なんだかプロフィールがガチ文学好きっぽい人を見つけた。
マッチせぇ〜!!!!
と念じ、画面をシュッとした。マッチした。
めっちゃ丁寧なメッセージが送られてきて、全然プーさんに誘ってこなさそうだった。スゲー。やったじゃん。
でも会う気とかないし、なんかおすすめの本とか教えてもらえればいっかな…みたいなテンションでメッセージを返した。
めちゃくちゃな勢いでメッセージが返ってくる。
彼はフランス文学が大層好きとのことだった。残念、私は基本的に日本文学ばっかり読む。まぁ、これも新しい分野に触れるチャンスか…と思うのも束の間、相手のフランス文学おすすめ紹介はものすごい勢いで送られてきた。
おすすめが一通り済んだところで、彼は私に問いかけた。
「めろさんは、哲学は嗜みますか?」
・・・?
「高校の時倫理とか好きだったし大学でも哲学の授業いくつか履修しましたよ」
「ではもちろん、純粋理性批判は読まれていますよね?」
「いや〜、勿論書名は知ってますけど、読破はしてないです」
この返答の後何が起こったか。
普通に怒られた。
彼曰く、文学とは哲学が根底にあるものであり、基本的な思想を解さずに文をなぞって理解したような気になっているのは言語道断とのことだった。マジかごめん。
あなたの文学ソウルを完全にナメていて、なんか、ほんとごめん……
カント、著書ちゃんと読んでなくてごめん。テストで散々あなたの名前書いたけど、私はあなたの著書を読んでいないことで今、顔を合わせたことのない男性から怒られています。
あれを読め、これを見ろ、彼の教育指導は複数のメッセージに渡って続いた。
マッチングアプリの映画のコミュニティに自分が思う「映画好き」がいなかったことにがっかりした私も、この人にとっては、「自分の思う文学好き」ではなかった。何となく会ったこともない人のこと「プーさんしか観る映画思いつかねーのかよ」って馬鹿にしていた私も、他の人から見たら舐めプのにわかだった。不快だったろうな。
あぁ…他の趣味についても自分は中途半端だ。雑誌の写真見たらすぐ「それ芋誌の2018年の○月号!」とか言えるタイプじゃないし、コンサートの後すぐ記憶めちゃくちゃになるし、大して金も積めないし……とめちゃくちゃ凹んでそのままTinderは退会した。
それ以来マッチングアプリはやっていない。
3戦3敗である。いや、そもそもちゃんと戦ってすらないか。
マッチングアプリを通して自分の相手を舐めてかかる態度はガチ反省したけど、それとは別に自分の好みに無理やり相手をはめ込もうとする人間もろくなもんじゃないと思う。
別にあの時の人に好かれる必要もないし、これからもきっと誰かの意見では純粋理性批判は読まない。マッチングアプリも、もうやらない。